俺はさ、東雨宮とカナンのこともそうだけど、それ以上にあのキャンプでカルテをばらまいたヤツを許せないんだ」
静かに告げられた言葉に、強い怒りが潜んでいるのが分かった。
いつになく真剣な声音に耳を傾ける。
あそこに集められたのは、カナンにスカウトする候補生で、全員訳ありだった。レイとレイチェルをのぞいてはな。俺はたまたま居合わせたバイトにすぎないけど、全員の事情を知って、数日だけど一緒に生活して、皆それぞれ癖はあるけど悪いヤツじゃなくてさ。お前も含めて、あいつらの悲しむ顔を見たくなかったのかもな。早いとこ無事にキャンプを終えて帰りたかった。」
敦さん、歩をどうするつもりだい?」
出たとこ勝負って感じだったけど、およその方針は固めておいた方がいいと思うわ、私も」
理想はさ、もちろん歩と和解だよ。歩もレイチェルも含めて、東雨宮と対決する。そもそも俺たちは敵じゃないんだ。だけど」
栄太とマリアの問いに、敦は苦悩するように頭を抱える。
歩くんをどうやって説得するかだよね」
ああ。あいつの恨みは相当強い。その恨みを晴らす言葉を、俺は持ち合わせていないぜ」
私が話してみる。伝えなきゃいけないことがあるの」
歩くんのご両親のことかい?」
はい。前にも少し話そうとしたんだけど、うまく伝えられなかったから」
そうだな。この中で歩は葉月と一番付き合いが長い。お前の言う事なら聞くかもしれないな」
敦の言葉に、葉月は子供の頃、屈託なく笑う歩と、思春期になり少し気弱になった歩を思い浮かべたのだった。
翌朝。
荷物をまとめて、南下する。
ジャングルをかき分け、サバイバル中に使っていた滝のある池までたどり着いて休憩となった。
よし、30分休憩だ。葉月、大丈夫かい?」
栄太に気遣われ、葉月は笑って頷く。
サバイバル中はこれくらい歩いてましたから。日本に帰って少しなまったけど、全然大丈夫です」
それは頼もしいね。あれ?ザンは?」
見回すと、ザンの姿が消えていた。
すると、木々をかき分けて、ザンが戻ってくる。
ぶひ!」
ザンはその腕に、子豚を抱えていた。
あ!!」
陰からこちらを伺っていた」
ザンは穏やかに笑いながら子豚を葉月の足下に離してやった。
ふふ、久しぶりね。少し大きくなったかな?」
葉月は子豚の背中を撫でながら、違和感を感じる。
(?)
よく見ると、子豚の首に、細い麻ひもが括り付けられていて、そこにメモのようなものが結ばれていたのだ。
これ!」
ああ。見てみろ」
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